カウンセリングのすすめ

心理カウンセラー小林宏の散文

頭から心への切り替え

人の悩みを聴くときでもカウンセリングでも武器になるのは感受性と人間性である。人間性とは頭の中の観念の人間性ではなくその人の本質の人間性のことだ。

大人になると感受性より知識を、人間性より観念を頼りに話を聞いてしまう。

人間同士の心が通い合う人間関係や、相手の言い分や気持ちを本当に理解する会話をするには、頭から心への切り替えをする必要がある。カウンセリングの訓練もこれにあたる。

知識や観念で聞いても相手の気持ちはわからない。

私たち大人も子供と同じような豊かな感受性と人間性を実は持っているものである。
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聞くことの現実

言いたいことか分かってもらえる、気持ちが通じる、心が通うということは、誰もが望むことであり、日常生活においてもあらゆる人間関係においても計り知れない程有意義なことである。

しかし一般的な傾向として人の話を聞くとき、その人を分析したり、推測したり、判断を交えて聞くという人が多いのではないか?

また、自分の以前の体験や、自分の見当や考え方に当てはめて人の話を理解しようとしていることも多いのではないか?

明確にいえるのは、そのような感じで聞いてる場合はその人の言いたいことや分かってほしい気持ちなどは、まず全く理解出来ないと断言できるということだ。
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人間理解~共感的理解とは

カールロジャーズが発見して体系化した来談者中心療法の中心にあるものは人間理解のひとつである「共感的理解」である。

これは「相手が言いたいこと分かってもらいたいこと訴えてることを、言いたいままに分かってもらいたいままに訴えてるままに理解する」ということである。

日常生活で「ねぇ聞いて!聞いて!」というように、自分の経験や考え気持ちなどをどうしても誰かに話したいということはよくあることである。

そんな時は自分の言いたいことや分かってもらいたい気持ちをそのまま受け止めてもらいたいものだ。

この言いたいことや分かってもらいたい気持ちをそのまま理解して受け止めることを「共感的理解」という。

「ねぇ聞いて!聞いて!」そこには相手に伝えたい内容と、それに付随する気持ちが必ずあるだろう。

気持ちとは、驚き、喜び、淋しさ、怒り、失望、悲しみ、つらさ、もどかしさなどキリがない。

しかし人間が持つこの感情、情緒が受け止められなければ共感的理解は出来ない。

では私たちは自分の中の何を働かせたら相手の分かってほしい気持ちや心が理解出来るのだろうか?

人間の気持ちは知識や技術を駆使して分かるというものではない。

私たちは自分の感受性や人間性を働かせなければならないのである。

カウンセリングや心理療法にとって「共感的理解」は非常に重要な人間理解である。
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人間理解~客観的理解とは


援助的な話し合いでは、相手の言うことを正確に聴くことがまず大事である。そして次に重要なことは正確に理解することである。

これは一般的に「人間理解」といわれる。

「人間理解」には全く異なった二つのタイプがある。そのひとつは「客観的理解」である。

これは正確に聴いた事を基にしながら、その人の問題点、心の状態、解決策などを客観的に理解するということである。

その代表は問診、検査、診断、治療といった医療である。医師はミスが許されないため高度で専門的な知識や技術が必要になる。今日ではすべての検査結果が数値や映像で出てくるので判断ミスは起こりにくいと思われる。

それでは心理の世界での「客観的理解」はどうだろうか?

その代表は精神医学や臨床心理などである。しかし目に見えないものであるために、専門分野でも検査方法も少なく不確かになりがちである。それだけに心の世界の「客観的理解」は非常に難しい。

一見些細なことと思えるような心の問題であったとしても、それを正確に理解するには高度な専門知識、技術が実際どのくらい役にたつだろうか?

ここに来談者中心療法というカウンセリングが必要な理由のひとつがあるのではないか。
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正確に自分を語る

自分自身の中にある何かを再認識し実感し、その結果自分が変わる。

立ち直る、成長するためには自分の内面を見てそれを正確に語る場が必要である。

自分の内面を正確に見て語るということは、何も悩みや問題に直面したり、壁にぶつかったりした場合に限って意味があるというわけではない。人間が健康的によりよく生き、自分の能力を十分に発揮し成長するためには、誰にも必要な作業である。

アメリカの裕福層では子供が大学生の時は専属のカウンセラーを付けるのが当たり前になっている。

しかし正確に自分を語ることは実際にはそう簡単なことではない。

自分にとっては触れたくないこと、認めたくないこと、ごまかしたいことなどさまざまある。漠然として明確になってこないこともある。無意識に抑圧されてるものもあるかもしれない。

正確に自分を語るとは、これらのこともすべて、じっくり時間をかけてでも正直に認め、言葉にするということである。

自己否定、自己不信を抱いてる場合には自分を見つめ正確に語っていったら、自分の中から何が出てくるかわからない。とんでもない何かがでてくると思いがちである。また絶望を実感することになり、逃げ出したいと思うかもしれない。そこには絶望と隣り合わせといった危機もある。

カウンセリングとは自分一人ではなかなかたどりにくい、自分でも認めたくないような自分を見つめ正直に語るという、そんな場を提供することでありカウンセラーとはその同行者である。

時としてそれは真っ暗闇のトンネルの中を入っていくような恐怖感をともなうかもしれない。カウンセリングとは救い上げるというよりはおそるおそるでもクライアントのペースで同行していくことである。

そして無理のないペースで自分を正直に見つめ語っていくとしたら、やがてその先には必ず自分にとって実りの多い明るい世界や自分自身を見出だすことが出来るのである。
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成長するということ

問題や悩みを克服して立ち直り、人間として成長するということ。

それはこれまで自分には思いもよらなかったことに気付くとか、全く知らなかったことを知ることよりも、これまで考えや知識としてはわかっていたことや世間では誰もが口にするような当たり前のことを、悩み苦しむ過程を通して改めて実感することである。

人間は問題や悩みに直面したり壁にぶつかった時、それは自分にはまだわからない事や知らない事があるからだと錯覚し、その答えを求めて「青い鳥」を探してさ迷い歩く。

しかし「青い鳥」など所詮どこにもいるはずがない。自分の悩みや問題を克服したり直面する壁を乗り越える答えは、必ず自分の心の中に存在しているからである。

幼少の頃ならまだしも、青年期にもなれば誰もがそうであると思う。

にもかかわらず人間がいとも簡単なことで迷い苦しむのは何故か?

それは「知ってる」ことと「心から実感する」ということは全く別のものだからである。

色々な本からの知識や人の話は自分の中の感覚や知識に照らし自分の内面を整理したり刺激する材料として活用できる。

本に刺激されたり人の講演を聞いて感動するということは、その体験や境地が理解できるということであり、自覚出来ようと出来なかろうとわかるだけのものは自分は持っているということだ。

人間が成長するということは、それまではただ単に知ってたりわかってたに過ぎなかったことの、その本当の意味を改めて実感するということである。
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無条件の肯定的配慮

無条件の肯定的配慮とはクライアントがたとえどのような話をしたとしてもそれに対し肯定的な気持ちと関心を持って耳を傾けることが出来るという意味である。

これはなかなか難しい。しかし「無条件の肯定的配慮」が常に存在してなければカウンセリング関係は成立しない。

ところで、一般の会話での「無条件の肯定的配慮」はさらに難しい。

しかし人間関係が「よりよく」また「暖かく」である場合には必ずそこには「無条件の肯定的配慮」が存在している。

また、相手に対して好き、わかる、素晴らしいといった肯定的な感情を抱くことを「肯定的感情状態」といい、相手に対して嫌い、嫌だ、腹が立つといった否定的な感情を抱くことを「否定的感情状態」という。

よりよい人間関係、暖かい援助関係は相手に対して肯定的感情を抱いていないと成立しない。

暖かい援助関係とは、相手に問題や間違いがあってもそれはそれで正確に認識しながら、同時に相手に対し肯定感情状態でかかわることが出来るということである。

もし相手に否定的な見方を持ち、それを否定的感情状態の中で指摘やアドバイスをしても相手にただ反発されるだけである。

否定的感情状態からの働きかけは基本的に人の心をよりよい方向へ動かすことは出来ない。

一般に「トコトン話し合うことが大切だ」とよくいわれるが、お互いが否定的感情状態でその感情が変わらないままでの話し合いは益々否定感を増幅させるだけである。

その場合、感情を変えることの取り組みが先である。
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